Still Life Tracing
インクジェット・プリント, 2018
カメラを手に取り、三脚を立て、撮影に入る行為には順序がある。ファインダーを通してその画角を確認し、その被写体との距離や光の具合を見て、ピントや絞りを合わせていく。この一つ一つの選択と決断を繰り返す丁寧な行為の連続した成果が「Still Life」という村上の代表作品を作り上げている。
今回、展示する作品は2017年から制作している「Still Life Tracing」。
この作品は村上の完成された写真作品をプリンティングし、撮影された被写体を確認するように色鉛筆やクレヨンを用いて被写体を塗り潰していく。次に塗り重ねられた写真群の構図を決めシャッターを切る。
一度完成した作品に新たな行為を与えることで、「Still Life Tracing」を作り出している。
「Still Life Tracing」には、村上自身の見ている世界観が如何に映っているのか、何を背景として捉えることで村上作品が作られてゆくのか確認することができる。
村上自身の作品に対しての考え方を解説する一方で、再度撮影された画角の中には村上自身が渡独して以来研究している静物画のモチーフや二次元の写真の中に錯覚するような奥行きが存在している。この点では、村上の択一した構図に決められた角度やルールがあり、映し出す作品からは村上自身の平穏さや終わり無い美術への探究心さえ見受けられる。
今回の展示のアピールポイントとしては、「Still Life」の作品をコンタクトシートにてプリンティングし、色鉛筆やクレヨンを用い塗り重ねられた実物の作品を展示する。この作品は「Still Life Tracing」の過程を確認することができ、村上自身が被写体を浮き彫り出すために扱った手の運びまでよく見ることができる。展示物の見せ方も黒い木箱に詰められたように小さな宝石のように見せている。
展示壁面には、実物よりやや大きいサイズの大判プリントの「Still Life Tracing」作品が展示される。来館者が作品の前に立った時には、あたかも村上の視点に立っているような錯覚まで起こすことを体感することになるだろう。
最後に、展示壁の一角に見上げて閲覧する作品を展示している。大人の身長の頭上に位置し地面に向かってお辞儀をした向きで展示された作品には、上を見上げて確認するのにも関わらず、作品自体は村上が足元に向けた角度の作品が配置されている。
村上自身が展示空間そのものの体験を来館者の目線で考え、本作品から得る最も小さな行為に見たことのない体験を与えることを楽しんでいることが見受けられる。